宵烟の小話を書きました
- VIOLENCE SHEEP

- 8月23日
- 読了時間: 8分
ヨキとモブしか出ない ヨキがびしょぬれのまんま子供を探す話
「すみません、急ぎなんです。どうか開けてもらえませんか」
月も沈んだ夜中、女性の声と共に表の扉が激しく叩かれた。
「悪いが店じまいだ。明日にしてくれ。」
今日は正直早々に休みたい。
首輪を指標に無理矢理猫を探す仕事を請け負い、徹夜で散々追いかけ回した挙句捕まえたと思ったら土砂降りの雨に降られた後なのだ。カゴに捕獲した猫には羽織をかけたため無事だったが俺自身はびしょ濡れだ。
先ほどようやく依頼主に引き渡したかと思えば今度はこの騒ぎだ。
「お願いします。開けてください。」
声の主が引く気配はない。
軽くため息をつく。
「一体何の用…」
鍵を開け扉を開くや否や女性がヨキの羽織を掴み訴える。
「助けて下さい…!!子供が…リョータが何時間も行方不明なんです!」
よく見ると後ろにも数人控えている。皆同じ色の服を着ているところからすると同氏族か。
「悪いが人探しは専門外だ。よそを当たってくれ。」
失せ物探しって看板に書いてあるだろう、と言いかけてやめる。
それでも相手は引こうとしない。
羽織を掴む手により力がこもる。
「もう捜索隊は出しました!それでも見つからないんです…!それに服だって靴だって物です。あなたなら探せるはずです!お願いします!本当に…本当に緊急なんです…!」
お願いします、お願いしますと女性はなんども食い下がってくる。
…もうこうなっては仕方がない。
ヨキは軽くため息をついた。
「…話だけは聞いてやる。ただ、その前に着替えさせてくれ。」
2階の居室で濡れた服を手早く着替え、1階へ戻る。
本当は熱いシャワーでも浴びたいところだが致し方ない。
少し寒気がするが気のせいだろうと振り切って、聞き取りを始める。
「最近、子供たちの間で月光杉の枝を1人で取りに行ったら英雄になれるっていうごっこ遊びが流行ってたんですけど…」
月光杉。森の比較的深部に生えている、光を蓄えてぼんやり光る杉だ。…正直過程の話は要らないのだが、訂正するのもめんどくさく、そのまま話を聞く。
「今日の昼間に本当に取りに行った子供達が4人いて…その中にうちの子もいたんですけど、いつまでも帰って来なかったらしくて、他の子は月も落ちたし雨も降ってきたから帰ってきたんですけど…うちの子は帰って来なくて…捜索隊も出したんですけど、森は暗いしなかなか見つけられなくて…それでお隣の人がさっき丁度ここで猫を見つけて貰ったからって、それで頼るならここしかないと思って…」
もう早速広まっているのかと頭を抱える。
あれだけ広めるなと言っておいたのに。
「そうか。…探すには物の情報ができるだけ多く詳細に必要だ。服、ズボン、靴、下着、サイズ、色、繕い跡から何まで全てを洗いざらい聞かせてもらう。いいな?」
「わかりました。ええと、服は薄紫でズボンは…カーキだったかしら…」
「いやあれはベージュじゃないか?」
「カーキで合ってるだろう」
付き添いの氏族達が口を出す。
ヨキはペンを走らせ全てをメモに書き留める。
「曖昧ならもうそれでいい。あと服のサイズとズボンの丈、靴の色、形、サイズも要る。」
「ズボンは膝丈だったわ。靴は…よくある普通の靴で…くるぶしまでの高さで、革製で茶色で…服のサイズは…ええと…腰より少し下の長さだけれども…」
「わからなければ身長でもいい」
「ええと…このくらいです。」
女性が手で指し示す高さを見て判断する。
約120cm。
メモに書き留める。
頭痛がする。
「体型は。痩せてるか標準か太ってるか。」
「標準だと思います。」
「下着は」
「え…ええと…」
「白!のだいたいみんな履いてる普通のやつ!」
他の氏族が口を出す。
「そうか」
メモに書き留める。
「他に何かないか。繕い跡、アップリケ、なんかあるだろ」
「い…いえ…ごめんなさい、わからないわ…」
これで探せないこともないが、もう少し情報が欲しい。
「この中で森に詳しい奴、いるか」
付き添いの氏族の中から手が上がる。
「森で猟をやってる者です。森にはそこそこ詳しいかと。」
「そうか。子供が行けそうな位置にある月光杉の位置を教えてくれ。」
「それでしたら…」
ヨキが差し出した地図に氏族が書き込んでいく。
今の所候補は3箇所。
「助かる。」
ヨキは煙草を取り出した。
「今から黒天眼で子供を探す。くれぐれも話しかけてくれるなよ。」
煙草に火をつけ、視る。
あまり詳細に服装を把握できなかったので複数視えるが問題はない。
背景が屋内のものを消せば、残るは1つ。森が視える。
が…。
「捜索隊、まだいるな?全員集めろ。あとランタンをありったけ、暗視の煙草もくれ。担架もいる。あと飛行が得意なやつを数名」
「あ、あの、一体…リョータはどうしたんですか…!?」
目に見えて動揺している氏族を見据え、ヨキは静かに言った。
「子供は、崖の下だ」
*.·┈┈┈*.·┈┈┈*.·┈┈┈*.·┈┈┈
はるか上に、月光杉の枝が揺れている。
少し遠くに転がっているカンテラを取ろうとして身体に痛みが走り、リョータは諦めた。
身体のあちこちが痛い。起き上がることもできない。
特に滑った時に捻った足首が痛い。何もしていなくてもズキンズキンと主張してくる。
雨に濡れた地面は冷たく、体がどんどん冷えていく。
とても寒い。
みんなはどうしただろう。もうとっくに帰っただろうか。
ぼくはもうお家に帰れないのかな。
あったかいお風呂に入りたい。
美味しいごはんが食べたい。
もうみんなには会えなくて、このままお空に帰っちゃうのかな。
涙が溢れて、こぼれる。
神様、お願いです。
ぼくはまだお空に帰りたくないです。
みんなに会いたいです。
お友達に会いたいです。
みんなでご飯を食べて、お風呂に入って、お布団で寝たいです。
もう森には入りません。
言いつけも守ります。
だからぼくをお家に帰してください。
…お願いごとをしても、夜の闇はちっとも変わらない。
嗚咽を漏らしそうになったその時、何かが聞こえた気がした。
「………!!!」
遠くから聞こえる。人の声のように聞こえる。
リョータはじっと耳を澄ませた。
やがてしばらく経って、
「おおーーーい、リョータくん、そこにいるのかーーーー?」
今度ははっきり聞こえた。
崖の上に、光と人の頭のようなものが見える。
やった、助かるんだ、お願いごとが通じたんだ!!!
「ここにいます!!!!リョータです!!!!助けてください!!!!!!」
リョータはこれまでで1番大きな声で叫んだ。
叫ぶと体がとても痛くて、辛かったけどもうこれを逃してしまえばもう誰も見つけてくれないと思ったから。
「いました!!!」
「よし、担架おろせ!!!!」
「リョータくん、今行くからね!」
崖の上から、たくさんの光と、たくさんの人が煙と共に降りてきた。
*.·┈┈┈*.·┈┈┈*.·┈┈┈*.·┈┈┈
捜索隊の誘導のため森に入り、結果子供は無事医者に担ぎ込まれた。命に別状は無いようだった。
報酬は概算の10倍の値段をふっかけたが、涙を流して感謝された。氏族たちは何度も頭を下げ、帰っていった。
彼らが帰っていくのを見届けて扉を閉めた瞬間、無視していた不調が一気に襲いかかった。
酷い頭痛に加え、身体は鉛のように重く、氷に全身を漬けられたかのような寒気がする。
もう一歩も歩けない。
数歩先のソファに辿り着く事すら叶わず、ヨキの身体は床に崩れ落ちた。
数日後。月の高く上がる「昼間」。
ヨキは買い出しのため商店街へ赴いていた。
高熱を出し数日寝込んだがすっかり治り、身体は軽い。
公園に差し掛かったところで、急に3人の子供達に囲まれた。
「ヨキさん!ヨキさんっスよね!」
1番右の子供が興奮気味に言う。
「そうだが…」
戸惑い気味に返すと子供達はそろって勢いよく頭を下げた。
「こないだはリョータを助けてくれてありがとうございました!!!!!」
「ました!!!!」
「っした!!!!」
「ああ、月光杉のガキ共か。」
「はい!!!おかげさまでリョータは無事メキメキ回復しております!!!マジで感謝っス!!!!」
「そうか。…よかったな。」
それだけ言って去ろうとすると子供達に引き止められる。
「ちょっと待ってくださいっス!!!!お願いがあるんスけど」
「まだなんかあんのか」
「あれから俺たちめちゃくちゃ変な格好させられるようになったんス!!!!なんとか言ってもらえないっスかね?」
子供達を改めて見るとなるほど確かに珍妙な格好をしている。
1番右の子供は服になんらかの顔が大きく刺繍されており、2番目の子供は服の上から派手なピンクのカラーリボンが縫い付けられていて、3番目の子供に至っては犬のぬいぐるみのようなものが服から飛び出している。
なるほどこれは変な格好だ。
「…愛情だよ。受け取っとけ」
おそらく服装から子供を探した時にかなり詳細に聞き込んだせいで、派手で被らない格好をさせておけば万が一の時に探し易かろうと思ってめいめい服を派手にしたのだろう。
「いやっス!!!!!おまけに家を出る前にめちゃくちゃ服見られるようになったんスよ!!パンツまで!!!!」
「あーそれ俺も」
「オレもだわ」
「それも愛情だろうよ。そもそもお前らが無茶な事しなきゃいいだけだろうが。」
「いやっス!!!!冒険したいいい!!!!」
「じゃあ一生そのままだな」
「うわあああああいやだああああああああ」
子供達は大袈裟に絶望して地面に膝をつく。
面白…。
「あ、でも俺たち、もう森には行かないことにしたんス。危ないし、約束したんで。」
「そうか。…いい子だ。」
そう言って1番右の子供の頭をくしゃりと撫でてやると嬉しそうに笑った。
「やっぱヨキさんカッケェっス!!俺も将来探偵になろっかな!!!」
「おれもなりたい!!」
「黒天眼使ってみてえ!!!!」
わいわい騒ぐ子供達を前に、やれやれとため息をつく。
「黒天眼はやめとけ。吐くぞ。」
「「「吐くのお!?!!!!????」」」
「昼間」の公園に、子供達の素っ頓狂な声が響いた。
おしまい



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