宵烟の交流返しをしました
へのお返しです。しおう きよみ様のところのアキラさんをお借りしています。
「ヨキさんこんにちはー」
事務所の玄関から能天気なご挨拶が響く。ヨキは書類の手を止め緩慢に振り向いた。
「また遊びに来たのか」
「えへへー」
「今日こそ大人しくしてろよ」
「前も大人しかったよ」
「全くそんなことはなかったが?」
話しながら、アキラは事務所のソファにちょんと座る。
ごきげんなアキラを見やり、ヨキは引き出しから缶を取り出しアキラの前に置いた。
「え、何何?」
「クッキー缶。こないだのリゾットの礼だ。甘いモン好きだろ。」
「えー、いいのに」
ヨキが置いたクッキー缶は、小さいながらも細かい装飾がされていて、高そうに見える。
「…高かったんじゃないの」
「さあな」
ヨキは薄く笑って机に向かい直す。
ヨキさんって笑うんだ、とアキラは思いながらもう一度クッキー缶に目を落とす。
月と星と花の模様が描かれた、ステンドグラス風のデザイン。周囲はぐるりと時計のように異国の数字で取り囲まれ、缶に施された立体的な加工でキラキラして見える。
「…きれい。ヨキさん、ありがとう」
「ああ。…今日は16時から客が来るから、満足したらそれ持ってとっとと帰れよ」
「また追っ払おうとするぅ…」
ヨキはアキラを見もせずにカリカリとペンを走らせている。
しばらく口を尖らせていたアキラだったが、やがて何か思いついたようにニンマリとして立ち上がった。
時計は15時を指している。
「ね、ヨキさん」
アキラは書き物をするヨキの背中にくっつく。
「なんだ」
「一緒にこのクッキーでお茶にしよ!ちょうど3時だし、お客さん来るまでまだ時間あるし」
「何故そうなる。それはお前にやったんだが」
「いいじゃん、あたしが貰ったんだからあたしがどうしようが勝手でしょ」
「それはそうだが」
「決まりね!お茶淹れたげる!」
そう言ってアキラはパタパタとキッチンへ向かい、勝手知ったるとばかりにお茶を淹れ始める。
ヨキは頭を掻きながらお茶を淹れるアキラの後ろ姿を見やった。
「開けるよ〜!……わあ!」
クッキー缶の蓋を開けたアキラから歓声が上がる。
中心に缶の花を模したアイシングクッキーが置かれ、あとは月や星を模した何種類かのクッキーが入っている。
「えへへ、どれから食べよっかな〜!アイシングクッキーはかわいいから最後にしよ!んふふ」
騒ぎながら、アキラはクッキーを1枚取り口に運ぶ。
「ん〜!おいし!」
つられるようにヨキもおそらくプレーンであろうクッキーを1枚手に取り口にする。
甘さとバターの香りが口の中で解けていく。
「えへへー、おいしいね、ヨキさん」
「…ああ」
カリカリとクッキーを齧るアキラを見ながら、ヨキはクッキーを1枚だけ食べてあとはお茶を啜っている。
「もう食べないの?…甘いもの苦手だった?」
「いや。俺が食うと減るだろ。せっかくお前にやったのに」
「えー、気にしなくていいのに。ほら、このお月様とかキャラメルでおいしかったよ」
「…そうか」
言われるがままに月のクッキーを取り口にする。
バターの風味とキャラメルの香ばしさが口に広がる。
「うまいな」
「でしょ!」
嬉しそうに笑って、アキラはまたクッキーを1枚とる。
1枚1枚ちまちま食べて味わうアキラはまるで子リスか何かのようだと、ヨキは思った。
アキラが何が言ってはヨキが短く相槌をうち、やがて4、5枚ほど食べたアキラが「もうそろそろおしまいにしよっかな」と言った。
「もういいのか」
「うん。お腹いっぱいになっちゃうもん。晩ご飯入らなくなっちゃう」
「そうか」
「ヨキさんももういい?」
「ああ」
そう聞いてアキラは缶に蓋をして、ご機嫌に缶を眺める。
「ね、このお花、なんだろうね」
「さあ…チューリップとかじゃないのか。…赤の」
「でも花びらの先青いよ?なんかくるくるしてるし」
「そういうデザインだろ」
「そうかなあ」
そんな他愛のない会話を交わしていると、事務所の扉が開き、杖をついた老人が入って来た。
「すみません、少し早く着いてしまって…おや、ティータイム中でしたかな」
「いや、構わない。…アキラ」
「わかってるよお」
アキラはお茶を飲み干してカバンに缶をしまい、肩からかける。
ヨキは事務所の玄関までアキラを送る。
「お邪魔しました。クッキーありがとう、ヨキさん」
「ああ。…今日は走るなよ、クッキー粉になるぞ」
「わかってるよ、子供じゃないんだよ。じゃあね、お仕事がんばって」
そう言って帰っていくアキラの背中を見送り、老人に向き直る。
「すまない、待たせた」
「いえいえ、私の方こそティータイムを邪魔しちゃってすまないねえ」
「いや、いい。ところで…」
話しながら、ヨキは事務所の扉を閉めた。
静かになった裏通りを、月が照らしている。






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